騎馬民族は来なかった (NHKブックス)



騎馬民族は来なかった (NHKブックス)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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目から鱗の日本文化論

騎馬民族は来たかも知れない。著者が「騎馬民族は来なかった」というのは「江上(波夫)さんが考えるように、騎馬民族の王侯貴族が組織的な騎馬軍団を率いて日本にやってきて征服王朝をたてるということはなかっただろう」ということを端的に表現したものである。この結論に至る道筋はあまりに明瞭だから読者が「来なかった」説を受け入れるのにあまり苦労はないだろう。ところが本書の醍醐味は実はこの表題の示唆する問題とは別のところにある。その意味では「看板に偽りあり」ということにもなるが実際に提供される内容は遥かに滋養分に富んでおり読者は思いがけないボーナスを頂戴するようなものである。
日本人はよく狩猟民族と農耕民族という喩えを使う。ところが事実は日本本土では食料採集の時代が長く、農業が始まるのは2,400/500年前で世界的に見て極めて遅かった。その日本の農業は、諸外国の農業が古来から植物栽培と畜産の二本立てであったのに対して食用家畜を持たない「非畜産農業」であったという際立った特徴を持っていた。(日本人の間で「農業」という言葉から直ちにイメージされるのは未だに植物栽培農業のことではないだろうか。)このことが日本文化に独特の性格をもたらしている。当然、解剖学的な知識の遅れは歴然としている。去勢に関していえば、現代の日本の大学者が「遊牧論」を書く時も、歴史家が中世の日本とヨーロッパの比較を論ずる時も去勢には一切言及がないという。自らが育った社会に存在しないものにわれわれがいかに盲目的であるかをあらためて思い知らされる。



日本放送出版協会
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