紀州―木の国・根の国物語 (朝日文芸文庫)



紀州―木の国・根の国物語 (朝日文芸文庫)

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差別の世界

 1978年に出た単行本の文庫化。ほかにも角川文庫版、小学館文庫版などがある。
 なかなか重い本であった。
 紀州半島のあちこちを旅しつつ、差別の問題へと踏み込んでいく。新宮、古座、田辺、御坊…。さらに伊勢や松阪へも。
 差別されている側へのインタビューや訪問が中心となっている。話を聞き、現場を目の当たりにし、それを文章化していく。描き出されるのは、複雑で根深い問題だ。解決の糸口すら見えない。
 もともと1977-78年に『朝日ジャーナル』に連載されたもの。いまではどうなっているのだろうか。
 ただ、本としては語りっぱなし、放りっぱなしという印象も強い。よその土地の人間には、どういうことなのかちょっと分かりにくい。
紀州サーガへの導入として

本書は、中上健次が生まれ故郷の紀州熊野を旅しながら思索した結実である。「街道をゆく」的な土地の表層を「サワって」済ませるタイプのドキュメンタリーではなく、中上的に言えば「切れば血の出る」物語の根がそこに凝縮されている。彼自身、本書を通じてその小説世界、物語の「根」を洗う旅としており、「岬」から「地の果て 至上のとき」に至る紀州サーガへの導入として読むことができる。一連の作品を読んだ上で本書に触れると、より一層物語世界が鮮明になるはずだ。



朝日新聞
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